スマホで電話を掛ける時に、ずっと手にスマホを持って話していると他の用事が出来ない。
車を運転中にはスマホを手に持って電話をすることは禁じられている。
このような事情もあり、スマホで電話をかける頻度が高い人は、ヘッドセットやハンズフリー機器、あるいは通話マイクの付いたBluetoothイヤホンを使う人が増えてきました。
これら機器を電話の通話に利用すること検討されている人は、なくてはならない通話中の騒音軽減対策(ノイズキャンセリング機能)について理解しておく必要があります。
cVc6.0・cVc8.0ノイズキャンセリング機能とは
スマホ用ヘッドセットやハンズフリー機器、あるいは通話機能の付いたイヤホンを選ぶ際に、カタログに記載されているスペックについて書かれている中に、cVc6.0あるいはcVc8.0ノイズキャンセル機能というものがあります。
CVCノイズキャンセニング、CVCノイズキャンセレーションと表記されている場合もありますが、同じ機能です。
ノイズキャンセル機能という文字は通話マイクのついた安価なBluetoothイヤホンのカタログにも多く用いられています。
ぱっと見るとBOSE社の高価なヘッドホンなどに搭載されるアクティブノイズキャンセル機能を想像する人も多いと思いますが、全く別物の機能なので気をつけましょう。
BOSEのヘッドフォンなどに搭載されるアクティブノイズキャンセル機能(通称ノイキャン)は、ヘッドフォンを装着すると、あなたの周囲の雑音を消し去って、音楽だけがクリアに耳に聞こえる機能です。
しかし、CVC6.0やCVC8.0ノイズキャンセル機能は、イヤホンやヘッドセット、ハンズフリー機器などを使って電話をする際に、あなたの周囲の雑音を相手に伝えないようにする機能です。
CVCノイズキャンセリング機能を理解していない無知な比較サイトにご用心
CVC6.0、CVC8.0ノイズキャンセルと呼ばれる機能は電話通話中あなたの周囲の雑音を相手に伝えない機能であり、BOSEのヘッドホンやイヤホンのアクティブノイズキャンセリングように、装着するだけであなたの周囲の騒音が消える機能ではありません。
CVC6.0、CVC8.0ノイズキャンセル機能はあなたの耳に届く音楽に何の関係もありません。
CVC6.0、CVC8.0ノイズキャンセルは音楽を聴く事と一切関係ない機能です。
何度も言いますが正しくはノイズリダクションです。
しかし無知な運営者がCVC6.0、CVC8.0ノイズキャンセル機能を理解せず、BOSE社のノイズキャンセル機能と混同して、「安価なのにノイズキャンセル機能が付いている」と評価しているサイトがあるのが驚きで、そのような胡散臭いサイトの記事は絶対に信用しないでください。
胡散臭いイヤホンレビューサイトのなかには、記事のパクリを繰り返したあげく…
「CVC6.0、CVC8.0ノイズキャンセルでクリアなサウンドを実現」
といった、何が何だか分からない、意味不明かつ読む人を誤解させる表現も見かけるので、正しい知識を持って、そんなサイトは生暖かい目で見るようにしましょう。
また2000円前後の安いイヤホンを作っているメーカーさえも、カタログ上でCVCのノイズ低減機能のことを、BOSEのイヤホンやヘッドホンのアクティブノイズキャンセルのようにわざと誤解させる記述をしています。
CVCのノイズ低減機能のことを「自分の耳に届く音楽がクリアに聴ける機能」のように意図的に紛らわしく書いている場合もあります。
騙されてはいけません!
そんな安いBluetoothイヤホンに、2万も3万もするBOSEのイヤホンやヘッドホンと同じアクティブノイズキャンセル機能が付いているワケない、と正しく疑う人生を歩んでいただきと思います。
CVCノイズキャンセルはQualcommの技術です
Qualcomm(クアルコム)は1985年、アーウィン・ジェーコブズとアンドリュー・ビタビによって設立。社名のQualcommは、QualityとCommunicationsを合わせた造語です。
本社はカリフォルニア州サンディエゴにあります。
CDMA方式携帯電話の実用化に成功して成長を遂げた企業です。
こう見れば、CVCノイズキャンセルは、やはり通話のノイズを軽減(リダクション)するための技術だということが明確に理解出来ますね。
Qualcommのサイト(英文)にはCVCノイズキャンセルの説明があるのでご紹介します。
以下はQualcommのサイトの英文を私が翻訳したものです。
cVc™ Noise Cancellation Technology
あなたが望むものだけを聞く
あなたが自宅にいるかどうかに関わらず、周囲の騒音、道路騒音などの背景音は、はっきりとした会話を困難にします。
クアルコム®cVc™ノイズキャンセル技術は高度なオーディオ機能とノイズ抑制をもたらし、パケット損失とビットエラー隠蔽を提供します。
これにより、Bluetoothヘッドセット、ハンドセット、ハンズフリー機器、車載通信機器で最高の通話品質を実現します。
cVc™ Noise Cancellation Technologyとは
cVcは、最適な音声品質を提供するために音声通話の送受信パスで動作する一連のアルゴリズムです。
cVcソリューションのさまざまなオーディオ処理機能を紹介します
・自動ゲインコントロール
・送受信イコライザ
・ノイズ軽減
・ハウリングコントロール
・非線形処理適応
・イコライザパワーセービング機能
・補助ストリームの混合
・周波数の強化された音声の明瞭度
cVc技術は、幅広いQualcomm Bluetooth Audio SoCで利用でき、使いやすいGUIベースのチューニングとモニタリングツールが提供されています。
Qualcommのサイトに記述されたcVc™ Noise Cancellation Technologyの説明は以上です。
CVCのノイズ低減機能の特徴
クアルコムのサイトを翻訳して気づいたことがあります。
非線形処理適応という説明です。
そしてそれがCVCのノイズ低減機能の特徴とも言えそうです。
非線形処理適応とは
cVcソリューションのさまざまなオーディオ処理機能を紹介しているなかに、非線形処理適応という説明があります。
これはどういうことかを調べると、単一マイクロフォンによる音声雑音除去というキーワードにたどり着きます。
つまりCVCノイズ低減機能は通話用マイク1つだけを用いた簡易的な通話音声雑音除去機能だということです。
単一マイクロフォンによる音声雑音除去と非線形処理について
従来の単一マイクロフォンによる音声雑音除去では、音声と雑音の統計的モデルの違いに基づいた信号分離を行うが、非定常的な音声は統計的モデルで効果的に表わされにくいため、理論的に最適な処理でも,聴覚上は違和感を覚えます。実際の音声と雑音の統計的モデルを得るのが困難でした。しかし非線形処理を用いることで、音声の非定常性に容易に対応でき、回路規模が比較的小さく、計算量が比較的少ない。また、音声と雑音のモデルを推定する必要が無いことなどから聴覚上も良好な音声出力が得られます。
明治大学 理工学部 情報科学科:音声雑音除去のための非線形ディジタルフィルタより抜粋
このようにCVCノイズキャンセル機能は一つのマイクだけを使って、理論的には違和感の少ない雑音除去を行っているのです。
複数のマイクを使った通話雑音の除去機能
CVCノイズキャンセル機能は一つのマイクだけを使って通話雑音除去を行います。
が、大勢のスタッフが電話応対するコールセンターなど、本格的にノイズリダクションを行う必要がある用途では、受話および送話において、環境騒音を消し去るノイズリダクション機能のために複数のマイクを使った機器が用意されています。
また市販品においても1万円以上する性能重視のBluetoothヘッドセット、ハンドセット、ハンズフリー機器、車載通信機器などには複数のマイクと高性能なDSP(デジタルサウンドプロセッサ)を使ったノイズ低減機能が装備されているものがあります。
市販されている通話用Bluetoothヘッドセットで有名なのは、プラントロニクスのヘッドセットVoyager 5200シリーズです。
プラントロニクスの4つのマイクを装備したノイズ低減機能には定評があります。
複数マイクによる受話時のノイズ低減
2つ以上のマイクを使う通話雑音除去の仕組みを簡単に説明します。
まず受話においては、自分の耳にセットしたヘッドホン近くに取り付けられたマイクが周囲の雑音を拾い、これと逆位相の信号を作って出力することで雑音を打ち消します。
あなたの周囲の雑音はあなたの耳には入らず、周囲が騒がしくても通話相手の音声だけが明瞭に聞こえます。
これはBOSSのアクティブノイズキャンセル機能と同様のしくみです。
送話時のノイズ低減
送話においても、周囲の騒音を拾うマイクと口元に配置されたマイクにより、周囲の騒音のみを打ち消し、話す音声だけを相手に送ります。
口元のマイクは、あなたの声(A)と周囲の騒音(B)を拾います。(A+B)
周囲の雑音を拾うマイクは、周囲の騒音(B)を拾います。
この2つのマイクが拾う音の差で、口元のマイクで拾った周囲の騒音があなたの声ではないことが分かるため、口元のマイクが拾った音のなかで騒音だけを消去します。(A+B)ー(B)=(A)
このため、電話先の相手にはあなたの音声のみ(A)が聞こえ、周囲の騒音が伝わることがありません。
こうした複数のマイクを使ったノイズ低減機能は、最近では携帯電話やスマートフォンなどにも搭載されるようになっています。
iphone本体にも実は2つのマイクが取り付けられ、iphone本体を手に持って耳に当てた通話では、騒がしいパチンコ屋からiphoneで電話をかけても、相手には騒音が伝わりませんし、相手の周囲の騒音も聞こえてきません。
iphoneの通話ノイズ低減機能はすさまじい効果を発揮しています。
2つもマイクを搭載出来ない安価なBluetoothイヤホン
しかし、回路の省スペース化や長い稼働時間がシビアに求められ、そもそも通話機能を拡充するよりも音楽を聴くための性能に重点をおくBluetoothイヤホンでは、複数のマイクを用意してコストをかけることが困難であるため、単一マイクによるノイズ低減機能、つまりCVC6.0、CVC8.0ノイズキャンセル機能が主流となっているのです。
また数千円程度の安価なヘッドセットやハンズフリー機器も同じく、安価にするために単一マイクによるノイズ低減機能、つまりCVC6.0、CVC8.0ノイズキャンセル機能しか用意されていません。
速報!5000円以下で4つのマイクを装備したイヤホンが登場!
SOUNDPEATSのTrueAir2 ワイヤレスイヤホンには4-mic cVc ノイズ低減機能が搭載されました。
4つのマイクで環境騒音と話し声を集音し、環境騒音を除去して話し声だけを相手に伝えます。
5000円以下のワイヤレスイヤホンでは画期的な商品です。
MEMS(Microelectro Mechanical Systems)技術とは
CVC6.0、CVC8.0ノイズキャンセルとならんで書かれていることが多いMEMS(Microelectro Mechanical Systems)技術についても簡単に説明しておきます。
これもノイズキャンセル機能に関する誤解につながり易い部分なので、ご一読ください。
すぐれた音響・電気特性を超小型パッケージで実現したMEMSマイクロフォン
MEMSとは“Micro Elerctronics Mechanical System”の頭文字をとった略語で、直訳すると“微小電気機械システム”です。従来の機械加工技術ではなく、ICなどの半導体微細加工技術などを用いて、基板上に微小な機械部品と電子回路を集積することにより、高機能のデバイスやシステムを極小サイズで製造するテクノロジーです。各種センサほか、メカトロニクス、バイオ、医療、自動車など、すでにさまざまな分野での応用が広がっています。MEMSマイクロフォンもその一つです。
MEMSマイクロフォンは振動・衝撃や温度変化に強く、マウンタ(プリント基板表面にチップ部品を自動装着する装置)による自動実装が可能といった利点もあります。電磁ノイズに強いコンパクトなパッケージの中に、すぐれた音響特性と電気特性を実現した超小型マイクです。 TDKより抜粋
つまり、MEMSマイクロフォンはすぐれた音響特性と電気特性を実現した超小型マイクであり、単一マイクを使ったCVCノイズキャンセル機能とは、全く関係ありません。
スマホやヘッドセットなどに2つ以上のマイクを取り付けるノイズ低減機能には、このような音響・電気特性を超小型パッケージで実現したMEMSマイクロフォンが必要不可欠となるのです。
単一マイクを使った通話ノイズ低減には限界がある
先述のように2つ以上のマイクを用いたiphoneやヘッドセットやハンズフリー機器の通話ノイズキャンセル機能は効果があります。
が、残念ながら単一マイクを使った通話ノイズの低減、つまりCVC6.0、CVC8.0ノイズキャンセル機能には限界があります。
私はCVC6.0、CVC8.0のノイズ低減機能を持つBluetoothイヤホンで電話をかけることが多いですが、通話相手には私の周囲の騒音がほとんど軽減されていません。
「うるさくて聞こえない」「周囲の高音が耳に刺さって痛い」という苦情を多く受けます。
私もCVC6.0、CVC8.0ノイズキャンセル機能を持つBluetoothイヤホンで電話をかけてきた相手の声は相手の周囲の雑音にまみれて聞き取りにくいです。
これはiphone純正の有線イヤホンを使っても同様に苦情を受けるし、聞き取りにくいので、現状では単一マイクを使ったCVC6.0、CVC8.0ノイズキャンセル機能は期待するほどの効果はないと言えます。
マイクの性能が向上すればするほど、周囲の雑音さえもしっかりと拾うようにもなります。
安価なBluetoothイヤホン、Bluetoothヘッドセットやハンズフリー機器の商品説明は通話機能についてもネガティブな事は一切書かず、用意したソリューションだけを盛っています。
さも良さげに、効果がありそうに見せますが、仕様を確認して、単一マイクを使うCVC6.0、CVC8.0ノイズキャンセル機能しかないなら、静かな家の中など以外では電話には使えない(相手に不快な思いをさせる)と考えておきましょう。
ゴミのようなCVC6.0、CVC8.0ノイズキャンセル機能唯一の利点
全くノイズ低減しないCVC6.0、CVC8.0ノイズキャンセル機能は、結果として通話に使えるような性能はありません。
あなたが、店内放送が響き渡るショッピングモールにいながらCVC6.0、CVC8.0ノイズキャンセル機能しかないヘッドセットやイヤホンマイクで電話をしようものなら、炸裂しまくる騒音に通話相手はノイローゼになってしまうでしょう。
完全無音の室内で電話する以外、絶対に相手に不快感しか与えないと断言出来るCVC6.0、CVC8.0のノイズ低減機能ですが、実は唯一、騒音を拾ってくれて良かったと思えることもあります。
それは、あなたがお気に入りの相手に電話する時に、相手に聞かせたい音楽を鳴らしながら会話をして、「その曲、いいね」と言ってもらえる場合です。
言われないにしても好印象を持ってもらえるかもしれません。
もしかすると、その時に聞こえていた曲が二人の距離を近づけて、二人の思い出の曲になるかもしれません。
99害あって1利ある。
それがCVC6.0、CVC8.0ノイズキャンセル機能です。
CVC6.0、CVC8.0ノイズキャンセル機能まとめ
何度も言いますがイヤホン、ヘッドセット、ハンズフリー機器などで見かけるCVC6.0、CVC8.0ノイズキャンセル機能は電話をかける時に役立つ機能です。
正確にはノイズを低減するだけのノイズリダクション機能です。
- BOSEのヘッドホンやイヤホンのように、装着するだけで周囲の騒音が消えることはありえません。
- あなたの耳に届く音楽に何の関係もありません。
そして1つだけのマイクを使うCVC6.0、CVC8.0ノイズキャンセル機能には期待するほどの騒音を消す効果もありません。
マイクが1つしかないイヤホン、ヘッドセット、ハンズフリー機器は、静寂な場所以外で電話をかけることは、まだまだ難しいのです。